形が変わる前、人は無力になった|2026.04.11

38年間連れ添った
顔の形が変わった
それだけ書けば
まぁそうなのだけど
顎変形症という
顎の手術に伴い
術後
数日間
何もできない
無力な時間と
止めどなく
溢れかえった
思考の話を
退院前夜に
*
少しだけ
前置くと
約3年前
歯科矯正を検討し
どうせするならと
顎のカタチ諸共
一番綺麗な
並びを目指した
先に矯正をして
2年半が経ち
2026年4月3日
顎の手術が始まった
手術時間は
約6時間
術後は
集中治療室で
1日安静
わかっていたつもりだが
事前説明から
一大事だと震えた
*
手術は無事終わり
翌日の夜
病室に戻ってきた
そこから2日間
生きるために息をした
息をするのも
苦しかった
その間起きた
思考の濁流と
文字通りの
無力
***
**
*
1夜目
血抜きの管と点滴
命を繋ぐ
幾つかの線
そして
朦朧とする意識
その場所でなぜか
人の痛みが
頭から
離れなくなった
身近な人の
悲しかった過去
ぐるぐる
ぐるぐるぐ
るぐるぐるぐ
るぐるぐるぐるぐる
頭の中を
止め処なく
巡り続けた
かろうじて
息をする
弱った状態で
他人の悲しみを
なぜか味わう
悲しかったこと
辛かったこと
相談されたこと
伝えたこと
口に出さなかったこと
想像したこと
全部が混ざり
歯止めが効かず
どれが事実で
どれが虚構か
わからないまま
怒りと
悲しみと
苦しみで
涙を流して
時折眠る
そんな一晩を
過ごした
何だったんだろう
意識から離れた
反応
抗いようのない
痛みと悲しみ
そして
無力感ではなく
”無力”
いつも日常で
何もない日々を
過ごしている
そう思っていた
意識的な
「何もしない」
だけど
無力は
全く違った
選べない
黙って
受け入れる
呼吸とともに
時間まで味わう
恐ろしかった
同じ事象を
何度も見つめ
角度を変えて
また見つめ
急に事実が裏返り
それでもまた
元に戻り
ぐるぐる
嫌悪のような
憎悪のような
悲観のような
確実に
醜悪だと思った
かけた言葉は
相手を縛る
呪いのように感じた
結論はもちろん出ない
何がしたいかも
わからない
気づけば朝を迎え
少しだけ息をする
ただ
何もできない過去を
追体験して
勝手に悲しんだ
目的のない
自傷行為のような
だけど
どうしても
理解したかった
それは他人の経験で
僕には永遠に
知ることができないのに
ただ共に
悲しみたかった
それが自分の癖だと
気が付いた
*
2夜目
始まったのは
過去の
自分との再会
保育園に通っていた頃
小学校に通っていた頃
中学生 高校生 大学生 社会人
その時々で
泣いていた
一人ひとりの僕
悲しかったことは
わかっていたし
10年前から
記録をつけて
今もこうして
見つめている
悲しさを
受容してもらえず
できないことを批判され
できることが価値になり
生きることは
間違えないことだった
僕は十分に
彼らのことを
理解している
つもりだった
*
いつも彼らは
泣いていた
目も合わず
ただただ
泣いていた
山の奥
布団の中
テーブルの下
ピアノの前
薄暗い部屋
思い出せば
探し出せば
キリがないほど
色々な場所で
泣いている
僕がいた
気付いていただけで
何もしていなかった
どうして今
それから数時間
息をしながら
ただ彼らと共に
当時を過ごした
散歩をした
一緒の布団で寝た
ピアノを聴いた
暗い部屋の中
ただ話をした
少しずつ
彼らと目が合った
こんなに
寂しい思いを
させいてたことに
気が付いて
また
会いに行く
“君は何が悲しいの”
佇む
“大変だったよね”
隣に座る
“多分仕方なかったよ”
目を合わせる
だけど
“悲しかったよね”
抱きしめる
何度も
何度も
そんなことを
繰り返していたら
時間は流れていった
息苦しさ
2日間の不眠
そして
無力
最後は薬の力で眠り
翌朝には息ができた
あぁ
生き残った
そう思った

僕の形は
もう戻らない
きっと
心も
戻らない
全てが生きる中で
ただ起きて過ぎる
そう感じた
*
何が起こったわけでもなく
何を学んだわけでもなく
無力である事実を
ただ突きつけられて
取り憑かれたように
思考がめぐり
それでも
人は生きるんだと
思った
命の瀬戸際で
死に争う人たちと
同じ部屋で
心を抉る
気づきを
無力であることは
凄まじい
そう思わずには
いられなかった
*
そして気が付く
僕の中で悲しむ
過去の自分達と
その癒しより簡単な
目の前の人たちへ
渡す
自己麻酔のような
“優しさ”
自傷のような
“愛”
この繰り返しに
やっと目をむける
向き合う時が来た
誰かの過去を
変えることはできない
誰かを癒すことは
他人にはできない
それは誰かの人生
僕ができるのは
隣に佇むだけ
遠く長く
歩き続けて
やっと
行き着いた
気がしている
そして
無力であることは
無力ではない
ただ佇むこと
その愛に
初めて触れた
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